今日の話題は、「住宅購入のことで夫婦喧嘩する人達」についてです。
長年相談会をしていると、住宅購入を検討し始めると、そのご夫婦の関係性やそれぞれの考え方の癖のようなものが表れてしまう気がします。
幸せいっぱいのはずの住宅購入なのに、激しい夫婦喧嘩をしたり、住宅営業マンにきつい言葉をぶつけたり、しまいには離婚まで発展する人たちがいます。
来る途中まで喧嘩していたのか、展示場に仏頂面でやってくるご夫婦。
一触即発のようなピリついた雰囲気を遠慮なく周囲に見せてしまうご夫婦。
苛立ちが隠せず、「もう家なんかやめたほうがいいんじゃないかと思う」と営業マンに当たり散らす人。
とてもこれからマイホームを手に入れるようには見えません。
これを筆者は「家づくりで迷子になる」と呼んでいます。
家づくりの森で、行く道も戻る道も見失っている様子に似ています。
これは住宅購入に限りません。
私は若い頃に輸入車のセールスマンをしていましたが、大きな買い物をするときに夫婦喧嘩を始める人は一定数いました。自分たちが何をしたいのか見失うのです。車が欲しかったのか、それとも違う何かが欲しかったのか、分からなくなるのです。
そして多くは苛立ちがセールスマンに向いていきます。
「わたしたちは何が欲しいんですか!!」と悲壮な顔をしたご主人(30代)に泣かれたこともありました。
セールスマンが自分が欲しいものを教えてくれないのが悪い!決断させてくれないのが悪い!と意味のようでした。
若かった私はひどく驚きました。
そんな感覚ってあるのか・・・と。
当時まだ若かったので言語化できませんでしたが、今は経験を積み、はっきりとその背景を説明できるように思います。
高級車でも、住宅でも、思い通りに進まないことが沢山あります。
自動車の場合は、欲しいグレードと色の車の納期が数カ月先になっていることもがあります。しかし今乗っている車の車検は来月に切れてしまう。今は車検を通して数カ月先の納期の車を待つか、それとも車検が切れるまでに納車が間に合うグレードと色にするのか。それとも計画を止めてしまうのか。
セールスマンはいくつかの選択肢を提示しながら、情報を伝えます。
住宅購入の場合も同じです。
希望のエリアの土地が、物件が少なかったり、価格が想像以上に高い場合があります。また、現在の賃貸マンションの契約更新に、家の間に合わないこともあります。高性能の住宅を求めれば当然価格は高くなります。メンテナンスフリーの高級住宅を選ぼうとすれば住宅メーカーは限られてきます。かといって、ローコスト住宅や建売住宅にすれば、相応のデメリットも存在します。
住宅購入の場合は、営業マンから伝えられる情報を集めながら、ファイナンシャルプランナーの力を借りながら判断をしていく必要があります。
このように、情報を整理しながら、選択を繰り返していくという作業が必要になるのです。
前述の夫婦は、大量の情報を処理できず判断も決断も出来なくなったのでしょう。加えて夫婦間のコミュニケーションが足りず、話し合うこと・議論することが出来ません。おそらく、いつもフワッとした軽い夢を抱き、それを買ってくるという購買スタイルを繰り返してきたのでしょう。大きな買い物を夫婦で話し合って実行するのは大きなハードルです。
そうなると、「欲しいものが何か分からなくさせた誰かが悪い!」と苛立つのも想像は出来ます。
誰かのせいにしたいものですよね。
しかし、欲しいと思ったものが、商品がいつでも用意されていて、値段も安くて、納期も希望通り、何もかもノーストレスで丸投げで実現する・・・ネットストアでいつものシャンプーを買うようにはいきません。
家はそんな買い物の仕方の対極にあります。
極めてハードで、極めてストレスがかかる買い物です。
住宅購入のライフプラン相談会で、もう投げやりになっているのか「ほかの家の人たちはこんな高い家をどうやって買うんですか!」と怒っている人がたまにいます。立派な世帯年収があるにもかかわらずです。
私の答えは
「もっと収入が低い方でも、子供の人数が多い方でも、購入していますよ」としか言えません。冷たいようですが事実です。
買っている方は、それが欲しいという理想を実現したまでの話です。その応援をファイナンシャルプランナーがしたというだけです。
迷子になる人たちに共通するものがあります。
それは・・・
①住宅展示場、工務店を10社、20社と回っている
②「本当の理想」を言葉に出来ない
③「本当の理想」を夫婦で話し合っていない
④「本当の理想」を自分が叶えるのではなく、「何かいいもの・安いもの」が業者から与えられると思っている
⑤「本当の理想」が分からないので、予算の目途がつかない。
この五つに尽きます。
全部相関関係にあります。
・理想のイメージがないので、夫婦で話し合えない。
・理想のイメージがないので、工務店を回りすぎる。
・理想のイメージがないので、いくら工務店を回ってもピンとこない。
・理想のイメージがないので、工務店が何を教えてくれても自分事ではない。
・理想のイメージがないので、値段が高く感じる。
結果、
「住宅営業マンは信じられない」
「住宅業界の闇」
「誰が本当のことを言っているのか分からない」
「営業マンが無理な判断を迫ってきた」
「判断に悩むような選択肢を提示する営業マンは悪だ」
「自分以外の誰かが悪い」
「配偶者も悪い」
という地獄のような発想に進んでいきます。
こうなると、ファイナンシャルプランナーもお役に立てることは一切ありません。
お金の不安は、理想を叶えようとする途中で感じるものだからです。
家づくりとは理想を描くことが出発点です。理想を描くとは主体性そのもの。主体性がなければ、自分は何が不安なのかさえ理解できません。
そんな時は「ご夫婦にとって、本当の理想をもっと話し合った方がいいですよ」とアドバイスしています。
工務店巡りは今はやめるべきです。
まずは、自分たちがどんな人生を送りたいのか、どんな環境で暮らしたいのか、どんな感情を得たいと思っているのか、どんなデザインが落ち着くのか、などを話し合うことです。
そして必ず、理想を叶えるためには費用がかかります。
「ちょっと高いなあ、払えるかなあ」と感じた時に、ファイナンシャルプランナーを利用すればいいのです。
理想を叶えるためにはどんな課題があるか?
どんな犠牲を払う必要があるか?
何をどう変えたら理想が叶うのか?
犠牲は払いたくないので、理想を削るとしたらどこか?
この考え方をしている人たちは、家づくりもお金のやりくりも成功しています。欲しいものが分かっているので、取捨選択の判断をしながらゴールに進んでいけるのです。逆に、今は辞めて撤退しようという引き返す判断も出来るでしょう。
「主体性」がキーワードです。
理想を描くことも、決断も、判断も、全部自分がやるべきこと。
それを意識せずに家づくりを始めると、必ず、自分以外の誰かに腹が立ってきます。
引き渡しされた家に「こんなの欲しくなかった」と感じ、また誰かを責めたくなると思います。
これは不幸そのもの。
家づくりが不幸づくりにならないためにも、まずは本当の理想について夫婦で話し合うのが優先です。
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