今回の話題は、「住宅ローンで自己破産する人の割合」です。
これは、事実と異なる嘘をあたかも本当であるかのように拡散する悪質な行為です。いたずら目的のこともあれば、自分の利益に誘導するために印象を操作しようとしていることもあります。
先日Twitterでこんなツイートを見つけました。
どう感じたでしょうか。
私自身は、驚いて五度見くらいしました。そして、またかこの類の情報かとため息が出ました。根拠が曖昧な数字で危機を煽り、自分の商売の利益につなげようとしています。
この人は不動産投資と称して、ワンルームマンションを販売したいのでしょう。自宅用の住宅ローンを借りてしまうと、投資用マンションを購入するローンを借りることが出来ません。
だから、住宅ローンは借りない方がいいと言いたいのです。
住宅ローンを借りるとこんなにリスクがありますよ、と衝撃的な数字を挙げますがこれも意図的なフェイクです。(後述)意図的でないとしたら、あまりにも軽率です。
住宅ローンは危なくて、投資物件をローンで買ったら危なくないのかと簡単につっこめますね。
あまりにも幼稚なのですが、こういうツイートに心酔する人たちがリプライ(コメント)を書いているのを見ると、恐怖すら感じます。
「投資」「資産運用」という言葉は20代~30代の世代にカッコよく映ります。ネットの中には「投資で億万長者になった」という人たちが派手なライフスタイルを見せびらかしています。(そこに写る高級車がレンタカーであったりもしますが)
資産運用というと知的で意識が高い印象もあるのでしょう。憧れるのは分からなくもありません。
しかしその心理を利用して、「住宅を買うより投資しよう」と言って何かを販売しようとする光景は本当に多く見かけます。
残念ながらその勧誘に惑わされてしまう人たちが後を絶ちません。
当事務所のライフプラン相談会でも、主にご主人が「家を買うのは反対、投資をしたほうがいい」と主張し、奥さんと喧嘩になるケースがよくあります。多くは家族の幸せのために考えを変えてくれるのですが、それでもかたくなに不動産投資や株式投資に夢中になるご主人もいます・・・
「年収500万円以上の勝ち組の会社員の方限定」という投資セミナーの広告もよくみかけますが、投資用の不動産ローンを借りられる年収の目安が500万円という意味です。勝ち組は関係ありません。見込み客の年収で入場制限しているのが現実です。投資家として勧誘されているのではなく、消費者として勧誘されていることに気づくのは契約した後です。
どれも詐欺とは言いませんが、消費者の負の心理をうまく利用して勧誘してくるのが恐ろしいのです。
投資のことはともかく、ここで気になるのは「50人に1人が住宅ローンで破綻する」というところ。
これもまたネットでよく見かける情報です。
これは誰が、どこで算出した数字なのでしょうか?
「住宅ローンでの破綻率」のエビデンスは存在しない
まず結論から言うと、「住宅ローンを借りた人のうち、〇%が住宅ローンを原因として自己破産した」という公的な統計は存在しません。
自己破産をした人の人数と、債務の内訳の統計は見つけることは出来ます。その債務(借金)の中に住宅ローンが含まれているケースもありますが、だからと言って住宅ローンが直接の原因になったかは判断できません。
ギャンブルで消費者金融での借金を重ねた人が、住宅ローンを持っていたかもしれません。住宅ローンの借り入れが無謀すぎて自己破産したという定義が曖昧で科学的ではなく、統計の取りようがありません。
ネットで出回る「破綻率」は、都合のいい数字を引っ張ってきたうえで計算した推測の数字です。
50人に1人が住宅ローンが原因で自己破産をした、というのは、住宅販売の現場からすると異常な数字です。
50棟販売し1人が自己破産するなら、その工務店は悪名が轟くはずです。個人的にもそのような工務店は知りません。比較的低所得者に販売している建売住宅の業者でもそんな率ではありません。
もちろん住宅を手放す人もいますが、私が見かける限り大半は離婚や転勤が理由です。住宅ローンが原因で自己破産し、住宅を失ったという事例はFPとして一件も見たことがありません。
仮に諸事情で住宅ローンの支払いに苦しんでいる場合でも、自己破産をするまえに任意売却をするのが現実的でしょう。自己破産まで行く人がいるとしたら、毎月の返済を放置してより悪化させた人です。
では50人に1人という数字はどこから来たのでしょうか。
「50人に1人が住宅ローン破産」という数字のトリック
ネットを検索してみると、確かに50人に1人という表現が散見されます。25人に1人という記事もありました。
すごい破綻率ですね(笑)
その根拠を示している(と思っているであろう)記事を見つけました。
正直論理性に欠ける内容でしたが、そこにはこうありました。
フラット35で知られる住宅金融支援機構の、リスク管理債権が貸付金残高の4%もある!というのが根拠になっているようです。
リスク管理債権とは、「破綻先債権」「延滞債権」「三カ月以上延滞債権」など、要注意となっている債権のことです。
つまり「この人破綻するかもよ?」という案件が4%もあるということになります。が、本当でしょうか?
住宅金融支援機構のディスクロージャー誌を調べてみると、この記事の筆者の意図的な情報操作が分かります。
ディスクロージャー誌にはこうあります。
(住宅金融支援機構 令和2年度ディスクロージャー「リスク管理債権」)
リスク管理債権が4%というのは、例えば令和元年度で見ると、「既往債権等」における(A)(B)(C)の合計が4.10%を占めるという、ここを抜き出したものです。
そもそもこの既往債権とはいわゆる「フラット35」の貸付のことではなく、住宅金融支援機構の前身である「(旧)住宅金融公庫」から引き継いだ債権が含まれた数字です。難しい話になりますが、既に解散した公庫住宅融資保証協会が弁済した債務も含まれています。
つまり、一般消費者がフラット35を借りて破綻しそうという数字ではありません。
実際はこの隣の「買取債権」を見ます。
この場合、0.5%になります。
そうなるとフラット35に限定すると200人に1人が、返済に何らかの懸念があるということになります。あくまで懸念であり、自己破産した割合ではありません。
フラット35は審査基準が緩やかで人気ですが、それでも0.5%です。
参考までにネット銀行であるソニー銀行のディスクロージャー(2020年3月期通期)を見てみると、貸出金残高は19791億円、リスク管理債権(破産先債権、延滞債権)はわずか13億円。率として0.06%です。
貸し出した1666人に1人が何らかの懸念があるということになります。
ネット銀行の審査の厳しさの背景が垣間見えます。
こうしてみると、25人に1人、または50人に1人が破綻するというのは、現実とかけ離れた数字だということが分かります。率直に言って、嘘です。
この操作された数字を使って、売りたいものがあるのでしょう。そのロジックの先にあるのは、投資の勧誘です。
もちろんリスクはゼロではない
かといって、住宅ローンを借りても絶対に破綻しないかというと、そんなことはありません。
大きな病気や失業などで収入が途絶えると、当然支払いは困難になります。
ギャンブルに溺れたり、浪費を続けるとはやり支払いは難しくなります。
ネットに蔓延る嘘は気にする必要はありませんが、地に足をつけた家計運営は必要です。
家を買う前には経験豊富な、住宅専門のファイナンシャルプランナーに相談してください。
友だちに追加すると、役立つ情報が定期的に届きます。