本日のテーマは、住宅ローン減税(住宅借入金等特別控除)の改正について、です。
2021年11月18日に、2022年度税制改正論議向けて国土交通省の案が判明したとマスコミが報道していました。
住宅ローン減税の詳しい制度内容についての説明は割愛します。国税庁のホームページをご覧ください。
改正にあたって現在問題とされているのが、控除率についてです。
現在は控除率1%となっています。ざっくりと説明すると、住宅ローンの借入額の年末残高の1%が税額控除される「枠」だという意味です。
例えば4000万円の年末残高があるとして、この1%=40万円の枠があります。この枠に収まる範囲で、実際に払った所得税と住民税が減税されるという制度です。
なぜこの1%が問題になっているかというと、住宅ローンの金利が1%を切っているからです。金融機関に支払う金利よりも、控除を受ける率の方が高いという状況を問題とされています。(これを逆ザヤと呼んでいます。)
しかしながら、現実にはこれは税額控除の制度ですので、支払っていない税金は還付されないという大前提があります。
年収が高い人=税金を多く収めている人には逆ザヤとなるかもしれませんが、それほど年収が高くない地方に住む一般的な会社員は、そもそも減税の枠を使い切れていないため、特に問題が起きているわけではありません。
今回の税制改正では、高所得の人達の控除枠を縮小したい(逆ザヤを解消したい)ということが狙いのようです。
マスコミの報道によると、改正のポイントは
①控除率は0.7%へ縮小
②控除期間は15年間へ拡大
です。財務省は高所得者の控除率をさらに引き下げたいとしているようですが、国土交通省は一律で控除率を引き下げたい意向だと報道されています。
えーーと驚くかもしれません。
しかし、感情に流されず具体的に数字の計算をして判断するべきです。
ヤフーニュースに掲載されるマスコミの報道をいくつか読むと、感情論に偏っていて、正確さが著しく欠けています。
本来、この記事に登場するような「20代カップル」の年収では影響はほとんどないはずですが・・・マスコミの軽率な印象操作に苦笑いしてしまいます。
実際、0.7%の控除率となったら、減税額にどのような影響があるのでしょうか。
弊社で具体的に計算をしてみました。
まず、一つ目のパターンです。
年収380万円、単独債務の会社員、借入額3000万円の場合です。
現在の制度(控除期間13年)に当てはめてみると、13年間で減税される総額は約292万円となります。
次に制度内容をこのまま(13年間)で、控除率だけを0.7%にしてみます。すると減税額は約289万円となります。
その差は約3万円です。3万円減税額が少なくなります。
しかし、控除期間が15年間に延長されたとすると、むしろ減税額は増えることになります。
減税額が増えてしまうため、国としては控除期間を延長するかどうかが大きなテーマとして議論されることでしょう。
上記は地方在住の一般的な年収の会社員の例でしたが、高収入の人の場合はどうなるでしょうか。
次のように計算してみました。
年収900万円、単独債務、借入額4500万円の場合です。
控除率1%の現制度の場合、減税額は475万円です。
これが控除率0.7%となったら、減税額は462万円となります。
その差は13万円です。
それなりに大きな差となってしまいました。
もちろん、こちらも15年間に延長されたら控除額は現行制度よりも増える計算になります。
結論としては、
①控除率が0.7%に下がると、減税額は若干少なくなる
②しかし控除期間が延長されると、現行制度よりも減税額が増える
ということになります。
あくまでもマスコミの報道をもとに推測しただけの試算です。
これでは何のための制度改正なのか目的が曖昧になるため、現実にはもっと複雑な改正となると思われます。
一般的な会社員にとってはさほど大騒ぎすることでもないようです。
控除枠が縮小されるので今すぐ契約しましょう、というセールストークには惑わされないようにしてください。制度内容が判明していない状況で税制改正を決断の根拠にするのは全く意味がありません。
ファイナンシャルプランナーも同じように決断を急がせる説明をすることが予想されますが、専門家なのですからその説明の具体的な数字の根拠を求めてください。
ファイナンシャルプランナーを名乗っていても、減税額の計算を具体的に出来ない人の方が多いのが現実です。
今回の税制改正は、高所得層に少し痛みがあるものになるかもしれませんが、一般的な会社員の年収では大きな影響はないと思われます。
マスコミに煽られることなく、弊社の相談会を利用して冷静な判断をしてください。